上手で遅いより、下手でも早い方が良い。
孫子の兵法のひとつで、「巧遅は拙速に如かず」から来ています。
特に戦の場合何と言っても先手必勝、スピードが大切だったということですね。出典は「孫子」です。

さて、「巧遅拙速(こうちせっそく)」 私が最初にこの四字熟語を知ったのは、会社員時代のある出来事を経験したことに端を発します。それは1993年、それまで多くの会社に存在していたパソコンはスタンドアローン(単独使用)でしたが、いよいよ社内ネットワークに接続され、情報技術革新という波が大きくなってきた時でした。
当時パソコンを販売していた我々のビジネススタイルも大きく変わり、単なるハード売りから、社内ネットワーク構築への提案営業をしていく事になりました。今でこそソリューション営業というのは当たり前ですが、当時はそんな概念もなく、また情報を取るのにも、ネットで検索ができない時代でした。結果、情報誌などを読みながら、無い頭で知恵を絞り、「提案書」というものを書き上げて営業することとなりました。

今思えば笑い話ですが、それまでの営業は、もちろん提案はしますが、提出するものはスペック表や試算表そして、お見積書という数字だけの世界でした・・・
 それが急に「提案書」になったのですから、おたおたです。金額も数百万円単位だったのが、数千万円単位になり、それなりの提案書を作るのに時間がとてつもなくかかったのです。
 ようやく完成したのは、お客様から頂いた1週間という約束の期限ぎりぎりでした。自分としては、かなり完成度の高いものをつくり、満足のいく提案ができたと思ったのですが、お客様からの回答は「丸山さん、一生懸命作ってくれたのはいいけど、こちらの意図することが十分に載っているとは言えないし、なおかつ金額も高い。それから言いたくないけど、他社のセールスはこの一週間何度も来て、分からないところを聞いていったよ。内容はそんなこと、という事ばかりだったけど、結果として我々の要求する内容の提案だった」 と。

 

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↑「孫子兵法」2500年前ですが、理論は不変です 

私としては、時間をかけて良いものを仕上げようと思っていましたが、実は独りよがりであり、内容も劣っていて、お客様にとっても不要なだけでなく、商談は失うわ、提案書作りについやした1週間の自分の時間まで無駄になってしまった、という本当に苦い経験でした。
ここで学んだことは、自分の感覚で時間をかけて物事を進めるのではなく、お客様のご要望には、まずはすぐに対応し進捗状況を逐次伝えながら、継続的に接触していくということでした。
まさに、ビジネスは絶対に、スピーディなレスポンスが必要ですね。

それからは、座右の銘として「巧遅拙速」を実践するようにしました。まだ途中だから、まだ要求を十分満たしていないからと自分の中で溜めるのではなく、「今ここまでですが、やってますよ」「ここまで出来ました」と動くことで、ビジネスが良い回転をするようになりました。

 右にある「トヨタの口ぐせ」という本を書店で見つけた時、まさに我が意を得たりと思い、それ以降私のセミナーや研修ではこの「巧遅拙速」を使うようになりました。トヨタのビジネス本は数多くありますが、「カイゼンは巧遅より拙速」というところがポイントです、と言うのがいいですよね。
 著者の事例では、会議で上司に改善点を指摘されると、その帰り道には現場に立ち寄って対策を考え、誰よりも早く行動を起こしたそうです。「失敗してもいいから、早く行動すれば評価されるのがトヨタだ。逆に、考えてばかりで動きを見せないと、本気で怒られた」と。時には「どんなにまじめに働いていても、行動が遅いがために、第一線の現場から外された人を実際に見てきている。それがトヨタの厳しさでもあり、現場ではとにかく行動の速さを求める。」と。
 著者は現在多くの企業のお手伝いをしているそうですが、ほとんどの企業はあまりにも行動が遅く、「じれったくて仕方がない」とおっしゃいます。そんな時に痛感するのがトヨタとの社員教育の差で「言葉1つとっても、部下に教えられる人がいない。褒めてくれる人もフォローしてくれる人もいない。教育がなければ、その後の実践もないのは明らかだ」とも言っています。

 営業や製造はもちろん、そして全てのビジネスの現場で、益々スピードが重視されています。「巧遅拙速」 ぜひ実践してみてください。自分も会社も、必ず力がついてきます。

 

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↑巧遅拙速の本です

 

 

(弊社発行 月刊まるやまVoice Vol.29 2013年2月号より抜粋)