知者不言(ちしゃふげん) Voice Vol.6

「知者不言」中国の思想家『老子』が説いた言葉です。これの対になる言葉が「言者不知」です。意味は読んで字のごとく、物事を本当によく知っている人は謙虚であって、知っていることを声を大にして言うようなことはしないということ。
おしゃべりな私にとっては、戒めの格言です。

子供の頃から、人と会うこと話すことが好きで、社会人になってからは、ほとんどが営業部門。そして、現在はセミナーやコンサルティングの仕事をしているわけで、しゃべること、話をすることが私の人生のテーマだと思っています。昔から、「沈黙は金なり」という言葉があるように、余計なことはしゃべらず、というのが、徳のある人だとすれば、その点に於いて私は全く徳のないタイプ?となりますが、ビジネスシーンでは沈黙は金ばかりとは言えませんので、分かりやすく上手な伝え方、内容のある話し方について、益々ブラッシュアップしていきたいと思っています。

さて、「知者不言」、皆様もご存知のドイツ生まれのノーベル物理学者
アルベルト・アインシュタインが、大正時代に旧帝國大学の教授らの招きで来日し、2ヶ月ほど日本滞在したのはご存知の方も多いはず。政府は当初東北大学に

教授として招聘したいとオファーを出したが、かなわず、そのかわりの来日だった

そうです。2ヶ月の間に各地で講演をし、観光も楽しみました。博士は当初来日の最大の目的は「ラフカディオ・ハーンが定住した国を見てみたい」という理由でした。そして来日し当時の日本人と交流するなかで、想像以上に感銘を受けた

と日記にしるしそれが現在も残されています。その一部を紹介すると・・・

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「わたしはこの数年、世界中を旅行して回った。今回日本に招かれたことを知った知人から心底うらやましがられた。ベルリンに住む、いやヨーロッパに住む我々に取って神秘の国といえば日本であったからである。日本に到着して2週間だがとても興味深いことがある。それは、日本人は欧米人に対して気後れが見られる点である。我が国における教育制度は、個としての存在をかけた闘いを、できるだけ有利な条件下で、優勢に展開する能力の付与を唯一の目的にしている。特に都会に於いては個人主義が徹底し、全力を挙げた戦争がところかまわず認められ、人はより多くの贅沢や享楽を求め、熱にうなされる如く働いている。家族の絆はゆるみ、古の芸術や徳は日常にさしたる影響を与えていない。人間としての明るさ無邪気さを奪い取る」とドイツの現状を嘆き、その後で日本ではそれが全く異なっていると書いています。

「日本人は個人主義の度合いが低く、家族の絆が非常に密である。日本人が教育を通して会得している徳、あるいは生まれながらにして備わっている心ばえの美しさは素晴らしい。日本独特の習慣は、自己の感情や情動を外に表さず、冷静に余裕を保つことである。精神的に相容れない人物同士でも、軋轢や紛争を生ぜずに一つ屋根に暮らしうるのである。欧米人には不可解に映る日本人の微笑の裏の、深い意味が、私にはここにあるように思う」

日本を去るにあたり有名な言葉を残しています。「特に深い印象を与えたものは、この地球という星の下に、今もなおこんなに優美な芸術的伝統をもち、あの様な心の美しさとを備えておる一つの国民が存在しているということであります」
このような知的で奥ゆかしい日本人がいたことと、それを評価した博士がいたこと、誇らしいと思います。

余談ですがノーベル賞の受賞は、日本に向かう船(日本郵船北野丸)のなかで電報を受け取り、結果として授賞式は参列できなかったそうですが、日本での講演が受賞後初の講演となり、各地で盛大に行われたとの新聞記事が残されています。

(弊社発行 月刊まるやまVoice vol.6  2010年10月号より抜粋)