先日、株式会社森精機製作所の森雅彦社長の話を聞く機会がありました。簡単に森精機のプロフィールをご紹介しますと、現在日本を代表する工作機械メーカーであり、東証一部上場企業でもありますが、歴史はそれほど古くなく、1948年に先代の社長が奈良県で創業し、その20年後の1968年から現在までの主力商品であるNC旋盤の製造を始めました。そこから技術開発に力を入れ、約10年後の1976年に国内シェアNO1となりました。3年後の1979年に大証、そして2年後の1981年に東証に上場しました。その後、経営不振になった同業会社を合併しながら、規模の拡大をはかり、この2012年3月期の決算では売上が約1553億円、営業利益約68億円という会社です。

2004年に、それまで奈良県の大和郡山市にあった本社機能を名古屋市に移しています。同社によると、顧客とサプライヤーの集積地である東海地区への移転で、情報・コスト・など様々なメリットを享受でき、結果として事業拡大の加速がついてきた、とのことです。

森社長は卒業後約10年間伊藤忠商事にて、主に繊維関連の営業を経験したのち、

森精機に入社しました。1999年に社長に就任してから、大学院にも通い工学部門

の博士号を取得しています。

今回私が取り上げようと思った理由は、森社長の明るい性格と、前向きな姿勢、世間

では日本の製造業の空洞化が叫ばれていますが、それは考え方次第、日本の強みを

発揮すれば、まだまだ道は開けるという話に共感したからです。

今回、お話を聞いたのは約1時間でしたが、ロジカルでありつつ面白く聞けたのは、

工学博士という基盤に、商社の営業経験があるからなのだと強く感じました。

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↑ 森雅彦社長

今回のポイントは以下の3点でした

【グローバルのとらえ方

日本のGDPが中国に抜かれ、アメリカには引き離されたとは言え、中国は人口が10倍以上、アメリカも2倍、しかも両国とも軍事費が多い。ドイツ以下のヨーロッパの国々に比較しても日本は小さな国であり、それで、世界3位。そう考えれば、全然悲観することはない。特に我々工作機械メーカーは、世界各国の製造業が必要としているので、サービス拠点さえ用意すれば世界のマーケットは無限大である。

【日本メーカーの潜在的な技術力】

アメリカでの大量生産、中国でのコスト競争と時代は流れてきたが、高度な技術は必要とされ続けていて、それに対応できるのは日本とドイツが双璧である。なぜなら、工場のマネージャーだけでなく現場の人間にまできちんと技術指導をし、正確にオペレーションできる技術者を養成しているからである。

【市場と、利益確保の可能性】

現在工作機械に限らず、日本の製造業に言えるのは、グローバルな展開力と世界対応の技術力。昨年フランスで大きなマシンが20台売れた。この時に追加オーダーを受けたのは、現場の人間の教育と24365のサポート(このサポートはITとGPSを使ったオートメーション管理システム)。これができるのは日本メーカーだからこそ。今では、単なる技術サポートだけでなく、その会社の技術者の指導料など、物販以外の利益も大きい。
また、昨年日本で100台の工作機械が売れたが、このうち、国内に設置したのはたったの12台。残りの88台は、中国、インドはもとより、南米・アフリカなど、これからハードが必要な国々だった。ここに市場がある限り、技術力を対応力さえ磨いておけば、ハードだけでなくソフトの売上が見込める。もちろんサービスに関しては自社で全部賄うのは効率的ではない。そこでドイツやアメリカなどのメーカーとのアライアンスを活用している。これが競争に勝つためには不可欠である。

 

8ba88263c0b8a91d91a8a656dc5e824f ↑2013年データ

 

 

いかがでしょうか。ざっくりと要約しましたが、ポイントとしては「グローバル」とは何かをしっかりと認識し、そして、まじめに技術を磨いてきた日本人のポテンシャルとそれで勝ち取った信頼感に自信を持とうということ。 私の人生の先輩が、モンゴルにプロジェクトマネジメントを教えに行っての感想の1つに、「グローバルなんていっているのは日本だけ、本来市場は世界中にある」という話がよみがえりました。圧倒的内需と日本語というローカルマーケットに支えられてきた日本の企業ですが、冷静に自らの強みを分析し、それを活かす手法を考えていくと、将来は悲観どころか楽しみが多いですよね。もちろん(海外に出る・出ないにかかわらず)成長はしていかなければいけませんし、イノベーションを起こす必要はありますが、それは昔からどんな企業にも必要だったこと!

とても面白く、なおかつ勇気をいただいた講演会でした。

  (弊社発行 月刊まるやまVoice Vol.22 2012年6月号より抜粋)