熟慮断行(じゅくりょだんこう)」 十分時間をかけて考えたうえで、思い切って実行すること。「熟慮」は十分考えを巡らせること。「断行」はすぱっとやることですね。経営者にとってとても大切な事だと思います。

先日仕事で函館に行き、「ラッキーピエロ」さんの店舗に行ってきました。「ラッキーピエロ」さんは、マスコミでもかなり取り上げられているので、ご存知の方も多いと思いますが、函館市内に16店舗を構える、ハンバーガーショップです。

驚くことにマーケットシェアは約70%で、年間約180万人が利用している、ユニークかつ、圧倒的な人気店です。地域へのこだわり、食材でのこだわり、店舗のこだわり、そして顧客サービスへのこだわり等々、実際に見てきた話、資料からの話、そしてTVでの社長インタビューの話などから、そのユニークさをご紹介したいと思います。

王社長は神戸出身で、高校卒業後親戚の家で商売を学び、21歳で独立し千葉県で中華料理店を経営した後、27歳で函館にわたり、飲食業をいくつかやって行く中で、成功と失敗を繰り返す日々でした。

その頃、成功している経営者について、改めて検証したところ、当たり前のことに気づきました。それは自分本位の商売ではなく、お客様から支持される商売をしなければいけないということです。

そこで、45歳の時、「地域密着」「地産地消」「顧客第一」をかかげ、ハンバーガーショップ「ラッキーピエロ」1号店を函館のベイエリアにオープンさせました。これぞまさに、20年商売をした後の「熟慮断行」だったと思います。

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↑王 一郎 会長

熟慮断行」で決めたことは、経営の安定のためリピーターを増やすこと。それには観光地函館の特徴である観光客ではな く、地元のお客様に愛されなければいけません。まずは味。食材は可能な限り、地元の農家を回り顔が見えるものを使うこと。価格が高くても、良いものを使うこと。そして作り置きはせずに、オーダーが入ってから作ること。さらに、お客様の要望に応えて、カレーやピザなども提供するようにしていることです。 外食産業は規模の追求と標準化で、低コストの効率営業がビジネスモデルですが、全く真逆の経営戦略になっています。お客様が喜ぶためには、美味しいプラス、感動が必要だと考え、社長曰く「えこひいき戦略」を取っています。

つまり来れば来るほど、お得になる仕組みですね。これは、一見客ではなく既存客へサービ スをするという、ファンづくりの基本だと思います。でも、結構できていない会社って多いと思いますね。この徹底ぶりが凄いです。

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ボッティチェリ館
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映画青年だった館

結果として、口コミが拡がり、お客様が集まるお店になりました。

王社長曰く、「ファンの方には、来るたびに何か驚きが無いと申し訳ない」ということで、ファンの格付けランキングから、オリジナルグッズの制作まで、常に様々な新しいことに、取り組んでいるそうです。

もう一つ面白いのは16店それぞれが、テーマを持っているということ。

私が行った本通店はボッティチェリの絵で店内が彩られ美術好きにはたまらなく、また美原店は往年の映画のポスターがあり、映画ファンにはたまらない店でした。こうなると、自分の好きな店ができるのはもちろん、他の店にも行きたくなるという。すてきな仕組みだと思います。
16店舗全て違ったテーマがあります。私が行った本通店と美原店

最後に、カンブリア宮殿に出演した時の、村上龍氏のコメントをご紹介します。

先進国では、国の求心力が失われる傾向にある。なので必然的に「ローカル」と「グローバル」が、サバイバルのキーワードとなる。ラッキーピエロは、前者の代表で、商圏を函館に絞り、地元の人々に愛されることで、画期的な成功を収めている。終戦後の「胃袋で」食べる時代から、「舌で」「頭で」、「心で」食べる時代へと変化していると王さんは言う。

正しい。 しかし、チャイニーズチキンバーガーは、私の胃、舌、頭、心、すべてで、おいしいと感じた。そして、そのおいしさは函館でしか味わえない。中央への、根拠のない憧れから脱皮する地方の企業が増えている。ラッキーピエロは、その象徴だと。

我々も、お客様の満足度を上げ、お取引が継続するよう戦略を「熟慮断行」。再考しようではありませんか。

(弊社発行 月刊まるやまVoice Vol.48 2014年10月号より抜粋)