「渾」は「すべて」の意味、ですので「渾身満力」とはすなわち全身全霊をかける事です。
今回の四字熟語は古典からの出展ではなく、愛読書である月間「致知」での特集で取り上げられていた言葉です。仕事に生きざまにこのような姿勢で臨みたいと思います。

さて、「渾身満力(こんしんまんりき)」 この言葉を愛した一人に画家の中川一政氏がいらっしゃるそうです。以前Voiceでもご紹介しましたが、真鶴町に町営の中川一政美術館があります。多くの作家とは異なり、この美術館は氏が存命中に建てられた経緯もあり、氏が気に入ったようにレイアウトをしたという点でも稀有な美術館です。天皇皇后両陛下も訪れていますが、半島にある静かな美術館ですので、まだの方はお勧めです。(調べてみると氏の美術館は石川県にもありました。これは氏のお母さんの出身地だからだそうです)。

さて、氏が「渾身満力」にして作品を際に作る際にたどり着いた境地が、「あとくちの良い作品」となったことだと言っています。「あとくちが良い!?」少し難しいですよね。作品を表面だけで見て、良い悪いというのではなく、後から響いてくるというようなイメージでしょうか?

なぜ、あとくちが良いのですか?と質問された際に「エネルギーが強いからあとくち良くなる。弱いと悪くなる」と表現したそうです。「渾身満力」で作品に向かい合うそのエネルギーが奥底まで入っていくのでしょうね。

1030あうん  
向田邦子氏の著書「あ・うん」の装丁に
使われた中川氏の作品です。
                     

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中川氏といえば、やはり向日葵

実際の油絵の深い色使いは凄いですよね

 

もう一人を「渾身満力」体現した方が、実業家の森村市左衛門氏だと思います。氏は、TOTO、INAX、日本碍子、ノリタケなどの母体となった森村グループの創業者で、あるとき雑誌の記者にインタビューされた時の談話が現在も残っていてその内容は以下の通りです。

「人は正直に全身全霊を尽くして、一生懸命働いて、天に貸してさえおけば、天は正直で決して勘定違いはありません。人ばかりをあてにして、人から礼を言われようとか、褒められようとか、そんなケチな考えで仕事をしているようでは、決して大きなものにはなりません。労働は神聖なもので、決して無駄になったり骨折り損になどならない。正直な労働は枯れもせず腐りもせず、ちゃんと天が預かってくれる。どしどし働いて、できるだけ多く天に預けておく者ほど大きな収穫が得られる。私は初めからこういう考えで、ただ何がなしに天に貸すのだ、天に預けるのだと思い、今日まで働いてきたが、天はいかにも正直。三十年貸し続けたのが、今日現にどんどん返ってくるようになりました」 と。 

 1030森村さん

森村学園に飾られている肖像画

また、あるとき事業のヒントを取材しようとしたら、このように言われたそうです。
「特に秘訣は無い、まじめに働け」 と。
いかがでしょうか? もちろん、事業家として次々に新しいことをやってきたわけですから、色々な情報を基に、熟慮断行をし、決めたらとことんまじめに取り組んだことでしょう。
「渾身満力」 もしかしたら、その取り組みの中から、多くのヒントや、アイデアが浮かんできたのではないでしょうか。「人生は有限だが、可能性は無限だ」私の尊敬する経営者が良く使う言葉です。新しい年度に向けて、天に貸を作れるくらいに 「渾身満力」ビジネスに取り組んで行こうではありませんか!

 

(弊社発行 月刊まるやまVoice Vol.30 2013年3月号より抜粋)