温柔敦厚(おんじゅうとんこう)」。穏やかでやさしく、情がふかいこと。
中国最古の詩集である「詩経」の教化の力を評した言葉です。この「詩経」は、古代の純朴な民情が素直に読まれており、人を感動させ、教化する力を持っていると言われています。
「温柔」は穏やかで柔和なこと。「敦厚」はねんごろで人情深いこと。出展は中国の古典「礼記」です。

 

  さて温柔敦厚。現代社会を生きていると、またビジネスの世界に身を置いていると、どうしても競争がついてまわり、勝った・負けた、成功した・失敗したということが日常的に起こります。もちろんそれがダメと言うわけでなく、そのことが会社も人も強くさせ、成長させる要因だということは疑う余地はありません。
  ただし、大きな時間軸や大きな視点で見れば、我々は生産者であると同時に消費者でもあるわけで、相互の立場を行き来しています。生産者として何かを作り上げるのも、サービスを提供するのも、組織があり仲間がいるからできるのであり、地域があり共同体があるからできます。つまりすべてが競争ではなく、共存している関係だと思うのです。
そう考えると、温柔敦厚の精神で仕事をしていくのは理にかなっていますし、それこそが組織や社会に生きる人間の本質ではないかと思うのです。

  日本経済の礎を作った「渋沢栄一翁」の、幅広い活躍は皆様ご承知の通りでしょうが、私が翁の言葉で好きな言葉にこんな内容があります。「世の中の人が全て常に衷心に忠如の精神すなわち仁を絶たず、これを実行して往けば、世の中のことは円滑に進行し、人々平和に生活してゆけるものである。仁者に敵なしとはすなわちこのことなり。」翁は20代の時、パリ万博に幕府の一員として随行し、ヨーロッパ各国を見て回るという経験を活かし、日本経済の発展に寄与するわけですが、それと同時に幼少期に学んだ「四書五経」のなかから、特に「論語」を自らの判断や行動のベースとしたことが、翁が大きな足跡を残した所以だと強く思います。その意味では、この温柔敦厚を実践践された経済人だと尊敬します。 

 

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↑渋沢栄一翁

 

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↑46年ぶりの新版、読んでみると当時の勉強会の雰囲気が伝わります。

もう一人、素晴らしい経済人であり実績を残した経営者の一人「出光佐三氏」ですが、先般「海賊と呼ばれた男」を読んだ後、巻末に記してあった、左記の本「マルクスが日本に生まれていたら」を入手して読んでみました。

この本はそもそも、「氏が80歳を超えてからマルクスを真剣に研究し、社内や社外の人間と勉強会を開いた時の記録」でしたが、「内容が素晴らしいため社外の人から要請があり、商業出版した」ものです。1966年に出版され絶版でしたが、今回の「海賊~」のヒットで、47年ぶりに再版されたのです。

読んでみると、氏が社員に対して、会社に対して、そして社会に対して「人間第一主義」を貫き通した想いが、改めて良くわかります。マルクスの研究というと、イコール共産主義、とステレオタイプで考えてしまいがちですが、『主義主張をした人間には、その背景があり、その想いがあり、実現したい夢があった』ということを前提に、一つ一つ検証していく姿勢と実行力が凄いと思います。そして、『人間は働きやすく、住みよい世界を作りたいのだから、思いやりを持ち、周りの事を考え、正しいことを求めてゆくということは、誰もが共通に持つ思いだ』と結論つけています。この考えこそ温柔敦厚だと思います。

 

温柔敦厚 渋沢栄一翁も出光佐三氏も、大きなことを為した人に共通するのは、本人の才能と、行動力によるところは勿論ですが、このリーダーについていきたい、支えたいと思う人が沢山いたというのが大きな要素だと改めて思います。その理由は温柔敦厚を実践され、周りの人から支えられたからではないでしょうか。
経営者はみな、社員の事を大切に思い、家族のように考えているとは思いますが、今以上に温柔敦厚を実践しながら、会社の力をつけ社員の力を伸ばしていきましょう。
そして今以上に、お客様に選ばれる、益々素敵な会社になって行こうではありませんか!

 

(弊社発行 月刊まるやまVoice Vol.35 2013年8月号より抜粋)